2006年

ーーー11/7ーーー 工房公開のイベント

 11月2〜4日に、「安曇野スタイル2006」というイベントに参加して、工房公開を行った。昨年に続き2回目である。前回は2日間で数名の来場者にとどまったが、今回はなんと100名もの来場者を迎えて盛況であった。主催者の宣伝力がモノを言ったようである。

 工房公開は、作業場に入って製造設備を見てもらうこと、写真集で今まで作った品物を見てもらうこと、事務所に置いてある家具十数点を見てもらうこと、などで構成される。他に材料の大板なども展示したが、あまり目が行かなかったようであった。もちろん必要に応じて私が説明をし、質問に応えたりする。

 多数の来場者を迎えたが、反応は様々であった。野球で言えばチップあるいは空振りに近い反応の人もいれば、ジャストミートの反応を示してくれた人もいた。そのいずれも、私にとっては良い勉強になった。展示のしかた、ご案内のしかたなどに、一層の工夫が必要と感じた部分もあった。

 今回あらためて感じたのは、一般の方の工房公開に対するとらえ方であった。ほとんどの人が「普段は敷居が高くて近づけないけれど、こういうイベントなら気軽に訪問できる」とか「買うつもりがなくても訪問できるのが良い」などのコメントを述べていた。中には「工房を訪問して仕事の邪魔をするのは申し訳ない」あるいは「見せてくれと言っただけで怒られるのではないか」などと思い、関心はあっても普通の日に工房を訪問することをためらっていた人もいたようだ。

 実は年間を通じて、私の工房には訪問者がある。その中には、あらかじめ電話などで予約を入れて来る人もいるが、通りがかりにフラッと入って来る人もいる。前者の場合は、家具を探している人か、木工の勉強をしている人が大半であるが、後者は単なる好奇心の人が多い。仕事が忙しいときには、飛び込みの訪問者はお断りすることもある。

 通りがかりの気まぐれな訪問者と比べて、今回のイベントの来場者は、仕事をしている者への配慮があり、マナーを身につけた人たちが多かったように思う。そういう人たちとこそ、普段からお付き合いができれば有り難い。

 私のような仕事は、世の中の人に知られてなんぼのものである。お客様の方から出向いてくれるというのは、願ってもないことである。ひやかし客ばかりでは意味が無いという人もいるが、日数を限定しての企画であれば、それも苦にはならない。仕事を社会に認知してもらうためには、なにがしかの投資は必要だと思う。

 ギャラリーを使った展示会とは違って、活動の拠点である工房においては、私の仕事の有様をより具体的に知っていただくことができる。犬好きの来訪者にとっては、工房の番犬オルフェとの出会いも楽しかったようである。プライベートな部分まで見せることを良しとするか、悪しとするかは、作り手の考え方で分かれるかも知れないが、私にとっては実りある4日間であった。 



ーーー11/14ーーー テーブルの塗り直し 
 
 工房公開のときにご近所の方が来られて、自宅で古くから使っているテーブルの表面がベタベタして具合が悪いのだが、塗り直しができないかと質問された。私は「やったことはないが、できると思う」と答えた。

 次の週にテーブルを取りに行った。持ち帰って工房の中に据えたところに、たまたま木工仲間が数人来たので、塗装をはがすやり方を聞いてみた。ある者はサンダーで落すしか無いと言い、別の者は電動鉋をかける方が早いのではと言った。いずれにしろ結構手間がかかるだろうとの予測であった。

 翌朝、懇意にしている工務店の親方に電話で聞いてみた。「自分ならポータブルのベルトサンダーを使う」との返事だった。私が持っていないと言うと、二台あるので貸してくれると言った。

 現場に取りに行くつもりだったが、たまたまこちらへ来る用事があったからと、持って来てくれた。そして使い方のコツを伝授してくれた。

 リング状になったサンドペーパーが、二つのローラーの間で回転する。それを材面に押し付けることで切削する。そんな原理の機械である。電源を入れると、キャタピラで動く乗り物のように前進する。それを両手で押さえて動けなくすることで、サンドペーパーが材の表面で空回りをし、削るのである。

 すごいパワーである。私が持っている別のタイプのサンダーと比べると、モーターの馬力が5倍くらい違う。試しに使い比べてみたら、作業時間は十分の一くらいになると感じた。三十分かかるところが三分で終わる勘定である。

 おかげで作業はスピーディーに運んだ。ウレタン塗装の硬い塗膜が、ゴリゴリと削り落される。機械を材面上で運ぶ際に多少の注意は必要だが、それさえ気をつければ失敗は無い。ただし、進んで行こうとする機械を手で拘束するのに、かなりの力が要る。しばらくやっていると手が疲れる。疲れるとコントロールが悪くなって、失敗を招く。休みながら作業をするのが、一つの要領であると感じた。

 親方の話では、大板を平らに仕上げる場合、昔なら手鉋で時間をかけて削ったものだが、今ではこのベルトサンダーで代用してしまうそうである。電動鉋による荒加工で残る凹凸など、これでまたたくまに綺麗に取れる。そして粒度の細かいペーパーに変えていけば、ピカピカの表面に仕上がると。「大工は時間勝負だから、こういう機械も積極的に使わなきゃダメなんだ」とは親方の話。そして「仕事なんだから割り切らなきゃね」とも。思い込みで手間をかけ過ぎてしまう傾向がある私にとって、少々耳が痛かった。



ーーー11/21ーーー 納会山行

 先週末、以前勤めていた会社の山仲間と、一泊二日の山登りを行なった。この一年をしめくくる納会山行ということで、登山と宴会の両方にウエイトが置かれた企画。場所は中央アルプス北部の経ケ岳、標高2296メートル。地元の中学校は、この山で日帰りの学校登山を行っているそうだ。そこにわざわざテントを担ぎ上げて、山上の宴会を楽しもうという計画である。

 私ともう一人は長野県在住だが、他の三人は千葉の人。始発列車に乗り、新宿で高速バスに乗り換えてやって来た。伊那市に集合したのが十一時過ぎ。この時刻にスタートをし、暗くなる前に山の上のテントサイトまで到達できるかどうかがポイントであった。

 中学生が日帰りで登る山と言っても、幕営装備一式を担いで登るとなると、ラクではない。重いザックを背負って、標高差1200メートルほどを登り切らなければならない。

 それでも、夕闇迫る四時半頃に八合目の高台に着いた。なんとかテント三張を設営できるスペースがある。早速テントを張り、夕食の準備に取りかかった。

 天気は下り坂の様相で、空の高いところには薄雲が広がっていた。しかし、視界は悪くない。ほどなく日が暮れて、眼下に伊那谷の明かりが灯るようになった。その明かりがだんだんと数を増し、最後には光の大河となって流れるようだった。

 メンバーの一人は、「山は夕暮れと朝が美しい。だから山の中で泊まるのだ」が持論だと。豪勢な夜景の美しさは、その言の正しさを裏付けていた。

 寒さを避けるならテントの中だが、全員が入れるテントは無い。顔を付き合わせて楽しくやろうということで、屋外で夕食と宴会になった。かなり寒い。手袋をしていても、指の感覚が無くなっている。しかしシェフのS氏が腕をふるった暖かい「ほうとう」を食べ、各自持ち寄ったビール、ウオッカ、スコッチ、バーボン、焼酎、日本酒を回し飲みしているうちに、すっかり体が暖まった。

 後はお決まりの高歌放吟、他愛のない話に打ち興じた。そして意識朦朧のまま寝袋に入り込み、宴会は自然消滅のようにして終了した(ようだった)。

 翌朝は小雪がちらつく天気。朝食の後、空身で山頂を往復した。昨晩の過度の飲酒で、二日酔いの症状。敗残兵のような足取りで、浅く雪に覆われた稜線を歩く。雪を載せた笹やぶが登山道に覆いかぶさっていて、それを押しのけるようにして歩くうち、ズボンがびっしょりと濡れた。

 テントに戻り、撤収、そして下山。小雨の中、二時間ほどで登山口に降り着いた。そこには仲仙寺という古刹あり。境内の鬱蒼とした杉林を背景にして、紅葉の鮮やかな朱色がくっきりと美しかった。

 近くの温泉施設に入り、簡単に昼食を済ませて、タクシーを呼び、そそくさと街に向かった。高速バスの予定時刻が迫っていたからである。昔なら時間など気にせず、駅前食堂あたりで下山祝いの宴を設け、もうひと騒ぎしていたところだが、山賊一同も年を取り、それなりに節操の人となった。爽やかな笑顔で再会を誓い、お別れとなった。

 ともあれ、気心の知れた仲間と山に登るのは、実に愉快なことである。今回もその思いを確かめた山行であった。



ーーー11/28ーーー ギルド展直前

 
毎年恒例のギルド展が開催される。今週末の2日(土)から4日(月)まで。詳しくはギルドのホームページを参照願いたい。

 今年で6回目となった。正直に言って、ビジネス面での成果は低調なイベントなので、これまでも開催を疑問視する声が、内部、外部ともにあった。しかし、ともかく10回まではやってみようというメンバーどうしの了解で続けて来た。

 始めのうちは、気負いも激しく、いろいろなアイデアを出し、目一杯入れ込んでやっていた。しかしそのうちに、「無理をせずにやっていこう。でないと続けられない」という路線に移って行った。良く言えば自然体でこなれた体質になったと思う。私自身、これといった収穫は当てにできなくても、この時期を楽しみに待つようになった。

 小さな発表の場ではあるが、一年を通じてギルド展のことが頭にある。「この品物はギルド展に出そう」とか、「ギルド展に向けて新しい物を作らねば」など、様々な目論みが常に頭のどこかにへばりついている。ある意味で制作活動の一里塚のような存在である。自らの励みを設定する機会でもある。

 この6年間で、メンバーも若干減った。減った上に都合で展示会をパスする人もいるので、ゲストを迎えることにした。前回からの試みである。ゲストを入れることで、展示会に新しい風が吹き込まれれば良いと思う。そんなことを期待しながら、いよいよ今週末である。





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